【インタビュー】「研究」を「現場につなぐ技術」へ
―新たなリハビリテーション、パラスポーツの可能性を広げる ―

国立障害者リハビリテーションセンター研究所の運動機能系障害研究部に研究室を構える河島則天さん(神経筋機能障害研究室長)は、研究成果を現場で活用できる技術へとつなげることを目指し、リハビリテーションやパラスポーツ分野で計測技術・リハビリ機器の研究開発に取り組まれています。テック技販も、フォースセンサを応用したリハビリ機器「BASYS」の共同開発をはじめ、さまざまな取り組みをご一緒してきました。今回は、研究への想いや研究室の取り組み、そして研究を現場へ届ける上での工夫や考え方について、河島さんにお話を伺いました。

進化する技術を現場へつなげる Motor Control Lab
研究室の取り組みを教えていただけますか?【河島】昨今、計測技術はどんどん進化しています。精度や効率は以前と比べて格段に上がっており、実際、計測者側の労力も被験者の負担も軽減されている。でも、その技術をリハビリテーションの現場で有益に活用できるまでにはなかなか至っていない。今、世の中にある技術をシステム化し、現場実装に繋げることがうちの研究室の取り組みです。河島さん
リハビリ現場に開発システムを実装することの意義は?
【河島】研究室に被験者さんにお越し頂いて計測できるデータ数は、せいぜいn100くらいですね。開発システムを製品化して現場実装し、例えば複数の病院などに配備されると、臨床現場で日々データが蓄積されることで何百、何千というデータになっていく。テック技販と一緒に開発したBASYSも、現在60病院くらいに導入されており、うちの研究室が連携している5病院のデータをざっとカウントすると、4,000〜5,000件くらいのデータになります。(※BASYSについては後半に詳細を紹介)"実はうちが一番リハビリの研究で力点を置いているのは、ラボでの計測環境を一定の精度を保証しつつ、ハード、ソフト両面で簡便化し、製品化を図った上でリハビリ現場で活用できるシステムに仕上げ、さらに開発システムで蓄積したデータを分析する、という循環の図式です。"

すごい速度でいろんなものを生み出されていますね。
ホームページに載っているだけでもシステムとして形になっているものが15個ぐらいありますね。

【河島】そうですね。年に1個ずつ、という感覚でその都度開発を進めてきただけなので、自分としては、そんなに多くの開発をやっているという意識はないですね。もちろんまだ、研究開発のフェーズに留まっているものも多くあります。製品にすること自体が目標ではありませんが、そうはいっても製品になって世の中に出ていかないと、対象者である障害当事者や、活用対象であるリハビリ臨床の医療専門職が活用するまでには至らず、研究成果止まりになってしまう。そこは強く意識して開発を進めています。

パラスポーツを支える計測技術
【秤谷/彦坂】これまで、パラ陸上の座位円盤投げの選手を繰り返し計測してきました。座位クラスの円盤投げは、投てき台に固定した台座の上に乗り、障害による下肢や体幹の動きの制約の中で、できるだけ大きな力を生み出す必要があります。下肢に麻痺はあるんですけども、それでも骨格を通して地面からの力をどう受けてくるのかっていうのは、すごく大事になります。データを見ていると、動作の中で床反力に変化があることが分かります。投てきの原理を理解する上でこのようなデータがすごく重要なところです。
あわせて、IMUセンサも円盤の中に組み込んでいて、回転数を算出するために使っています。このカスタム円盤の利点は、ラボ計測だけではなく、屋外の実際の投擲時でも計測が出来る点で、室内での限られた環境と、屋外で全力で投げたときの違いも見れますし、室内でも屋外でもどちらのパフォーマンスが上がっているっていうのが、可視化できるのはすごくいいところだと思います。実際に、パリパラリンピックで銀メダルを獲得した鬼谷慶子選手の計測を縦断的に実施しました。

この円盤投げにおいても、円盤の回転数というのはポイントになるんですか?
円盤の中にIMSセンサが組み込まれている【秤谷/彦坂】そうだと思います。特に鬼谷選手の場合は、かなり回転が綺麗です。我々が投げてもまっすぐ飛ばすのってすごく難しいですが、回転しているからこそ揚力を得られるのではないかとは思っています。 実際にシミュレーションで角度と最大速度から大体の投てき距離が出てくるのですが、回転がない状態だと、投てき距離は、大体その理論値と同じくらいになります。ただ、鬼谷選手の場合だと、理論値よりさらに遠く飛んでいることもあったので、そういうところも面白いところですね。

【河島】 結果、なんで記録が上がったかっていうのが、数値データで客観的に明らかにできると、後に続く選手のトレーニングやコーチングに役立てられると思うんですよね。
選手自身の競技パフォーマンスへの直接的なフィードバックに加えて、他の選手のスキル指導・コーチングに活かせるデータを得るという視点は、パラスポーツの科学支援や普及・参加促進という視点でも重要です。うちのラボは、基本的にはある特定の選手のサポートは行っておらず、計測したデータから動作原理を理解し、成果還元として選手へのフィードバックやコーチングに活かしてもらうことを意識しています。鬼谷選手はもともとリハビリを行っている時期から関わりを持たせてもらい、競技参加当初から用具支援やデータ分析で長期的にフォローさせてもらう貴重な機会を得て、ご本人のポテンシャルと努力の甲斐あって、めきめき頭角を現し、記録を更新し続けました。その経過を追っていったところ、フォームや回転数がどんどん改善されていった。まさにデータでの裏付けが可能になった好例ですね。
「円盤の回転数を測りたい。」だったらIMUを円盤の中に入れて測ってみよう。誰かに作ってもらうのではなく、センサの原理を理解して、これだったら仕込んでも問題ないよね?やってみよう!という、好奇心ベースの取り組みです。自分たちで計測環境の構築ができないと、センサがいくら進歩しても、実際に「やりたい」イコール「やれる」にはならない。よくスポーツの場面でも医療リハビリの場面でも、研究と現場の乖離っていうのが指摘されていて、そこのギャップを埋めるのが自分たちとしては一番重要なところかなっていう感じですね。

車いす円盤投げにおいて、円盤を飛ばすということは、どこかで反力を得なければ円盤にエネルギーを伝えられないかと思うのですが、
やはり車いすの使い方、車いすに当たる力をみるのでしょうか?

【河島】 動作の原理自体をしっかりと押さえていけば、全く初めて見る動きでも、何かしらの情報は取れると思うんですよね。たとえば投球フォームだって、投球フォームの個人差とかももちろんあるし、下半身主導で投げるピッチャーと、リリースだけで投げるピッチャーとかもいますが、投球動作の根本原理があり、その上での個人差がある。パラ競技は多岐にわたり、車いす競技をとっても、競技毎に車いす自体の構造や動作の特徴は大きく違います。ただ全く初めて見る競技、経験がないから何も分からないかっていうとそうではなくて、競技場面で行う動作のデータを揃えていって、身体動作と車いすの機能、相互のインタラクションを捉えることを意識して、みたいなことをその都度その都度考えるのが仕事なんでね。
競技によってはまだ、一人の選手しか計測してないこともあります。もちろん、n=1だと論文にはなりにくい、個人差も評価できない。ただ、ここ数年、パラ競技の科学支援を続けて、n=1,2,3と着実に数が増えてきている競技がほとんどで、研究論文にするために何人データをとる、というスタイルではなく、とりあえずは自分たちが縁あって計測する対象がいれば、その都度、とりあえず意味のある計測をやりましょう、みたいな感じですね。

9軸IMUセンサ データロガー型慣性センサ IMS-SDのページ

河島さんを動かす原動力
河島さんのモチベーションはなんでしょうか?
【河島】すべてなんとなくですよ(笑)自分が「これをやりたい」って思って始めたことは実のところほとんどなくて。ここ(国立リハ)に来たのも縁、リハビリの研究をやり始めて、やってみたら面白くなった。リハビリに関わっていた元患者さんが競技を始めて、パラスポーツにも関わり始めた。単に競技場、現場行って、一緒にトレーニングやったり、パラに出るってなったら、おーよかったね!じゃ、ちょっと研究者として関わるには片手落ちだから、ここ数年はしっかり研究としてやってみよう、ということになった。結果的にそうなっただけです。

単純に興味が今ここあるから、こっちに関わろうとか。もっと突っ込んだらやっぱり面白いし、もっと良くできるし。という感じですか。
【河島】 そもそもパラ競技への関わりは、患者さんとしてのリハビリでの関わりから派生しているので、ある意味シビアです。 例えば、そもそも健常な生活を送っていたところに重度の障害を負った場合、社会生活に戻ること、職業復帰をすること、というのがリハビリの目標になりますね。それを実現した後に、余暇のアクティブな活動、自己実現の手段として、元々スポーツをやっていた人だと、もう一度、何らかスポーツを始めよう、という思考が起きる。一緒にリハビリをやって、生活にも戻れて、それでその先ちょっとスポーツでもやってみたら?という具合で、自然な流れの中でやってきたことなんですよ。

河島さんの中で特別ここを狙ってとかっていうわけではなくて、自然体でやっていったら結果今こうなっていた、という感じですか。
【河島】そうですね。鬼谷選手の場合だと、元々患者さんとしてラボに来ていた時期が3年ぐらいあります。競技を始めるときから関わらせてもらい、最終的にパラリンピックで銀メダルを取るまでを、データでもフォローさせてもらうことができた。こちらがいい経験をさせてもらっているっていう方がやっぱり大きいです。今も他の選手で同じようなことがありますし。ここに来るきっかけっていうのはみんなそれぞれですが、何かしら身体面で、ちょっと他の選手に比べて劣る部分や、何か病気の進行があったりだとか、何かしら悩みや課題があります。そういう人たちに対してどういうサポートができるか、というのを問題意識にして、研究や用具開発などを進めている感じですね。

BASYSは、こうして生まれた
現在、重心動揺リアルタイムフィードバック装置BASYSでご一緒させていただいておりますが、誕生秘話など是非お聞かせください。
【河島】これも本当に、好奇心の延長なんです。最初、地震に対する建物の免震から着想を得て、リハビリに応用できないかと考えました。日本の木造建築は木のしなりを活かした制震構造で、震度4~5の地震でもある程度揺れに耐えられる。でも木造建築って3階建て以上はあまりないですね。中層階の建築は基礎と鉄骨の耐震構造などが使われますが、高層ビルはどうするかというと、耐震じゃなくて免震構造が使われます。揺れたらベースが動いて緩衝する。それをやりたかったんです。
障害を持った方が自分で立位姿勢を保とうとしても、グラグラしちゃう。自分で制御できないんだったら、環境との相互作用で免震みたいなことができれば、もしかしたらそれがリハビリにとっていいかもしれないと。
最初は研究費を当てて6軸モーションベースの上にフォースプレートを乗せて研究を進めていました。そこで会長(当時の社長)に話をしたら、これは面白い!是非テック技販でやらせてください!と声をかけていただき、進めることになりました。プロトタイプを作り始めてから製品化まで、1年半で実現したんです。


  • BASYS開発機

  • 製品版BASYS

【河島】開発を進める中で、なかなか意図が伝わらないこともありましたね(笑)
現物を見てもらって、少しずつ理解してもらいながら進めた感じですね。BASYSの場合、実際の立位姿勢時の重心動揺量のわずか5-15%くらいしか床面を動揺させないので、立ってるだけだと動きが微々たるもので、明確な効果の認識が得られないこともある。原理や作用はしっかり裏付けはしているんですが、一般の医療スタッフとかにこの原理とか理屈を理解してもらうのは、いまだに結構苦労してます。
でも、流行り廃りがほとんど関係なく、インフェーズモード、アンチフェーズモードは基本原理がしっかりしているので50年、100年たったとしても、考え方としては変わらないと思います。ドライブシミュレーターとか他の手がけた計測システムも、基本自分がやることっていうのはあんまり流行り廃りが関係ないです。原理をちゃんと理解して、そこに重きを置いてシステム化しています。
河島さんとBASYS

社会実装するところまでやっていくって、研究者としては一つ課題であり、難しいところなので、 そこを積極的に活動されていて本当にすごいですね。
【河島】メーカーさんも然りですよ。ISOと医療機器製造業・販売業の認可をとって、自分のところで販売したいって言ってくれて初めて成り立つものです。こういうのもやっぱり医療機器登録がされてないと、病院のリハビリの現場では使えないので。自分としては、研究成果をアウトプットするというより、一緒にタイアップしてるという感覚なんです。自分が作りたいシステムの要素技術を持っている企業さんに、作ってみたいもののアイディアや必要性を伝えて、自分の考え方に賛同してもらい、実際に開発にパートナーとして関わってもらい、労力を伴う医療認証とか機器登録とかまでを一緒にやってくれて初めて成り立つことですから。

重心動揺計【BASYS】のページ

大きなフォースプレートだから計測できること(1200×400mm)
テック技販FP

テニスMocap解析スライド【彦坂/秤谷】様々な動作を計測しますが、障害を持った方の場合、車いすや杖など、何かしらツールを使うことが多いんですね。これは車いすテニスをしている時のキャプチャーデータです。右左から出ているベクトルは、足からじゃないですよね。これは車椅子の接点がホイールなので、左右のホイールにかかる力ですね。ある程度このプレート上を自由に動いてもらって、そのデータを動作と力学の両方で捉えられるといい。例えば、右でラケットスイングしようとしているところは、右のホイールに力がかかる。それが体の重心って、座位ても立位でも腰のやや上のあたり[EI1.1][NK1.2]なので、そこに向かってベクトルが伸びています。こういう原理は、ちゃんと計測データに反映されているんです。今回の動きは大きいフォースプレートじゃないとできないですね。
ここのモーションキャプチャの計測ボリュームが長手3mぐらいなんですけど、3mくらいの計測範囲を、フォースプレートでもある程度カバーできる環境を作ることが、基本のセッティングとしては重要です。大きなフォースプレートや特殊サイズのフォースプレートは重宝します。

フォースプレートのデータは6分力だけでなく、COP(圧力中心点)の推移もありますよね。
【河島】データの使い方って、結局力強さだとか大きさに力点を置かれがちなんだけど、その動作の再現性に着目することも結構あります。床反力の場合は、目に見える動作じゃなく、力学なのでデータを取らないと分かんないです。例えば、実際のスイングスピードのような動作の変数じゃなくて力学的な変数を取ることで、結構パフォーマンスとダイレクトに結びついたりとかいうのがあるんです。

いわゆる内力をちゃんと追えるか、というところでしょうか。
【河島】力っていうのは基本的に神経系の制御とかを反映するんですね。動作っていうのは見かけ上の動きなので、例えば体幹や脊柱の動きが起きている場合、腹筋や背筋など体幹を利かせて動作しているのか、外力に負けて振られているのかっていうのは分かんないです。力学データを取ることで制御の側面とかを見られるっていうのは圧倒的な利点だと感じます。

フォースプレートのページ

多軸ロードセルで力の伝わり方を計測
【河島】テック技販の力覚センサを配置して計測した例もありますよ。円盤投げの投擲台の各パーツに配置して、投てきをする際に車いすと体が接触する力を計測しました。
車いすを反力として、エネルギーをどのように円盤へ伝えているかを計測しているのですか?
【秤谷/彦坂】そうですね。この計測も鬼谷選手を対象として実施しましたが、データも縦断的な経過でだいぶ変わってきています。投げ方もだんだん変わってきていますので、それに合わせて投擲台の角度やセッティングの調整に活かしてきた、という感じです。
【河島】 本人の場合は、やっぱり自分の感触とデータとの誤差合わせなんだと思うんですよね。自分がイメージしている動きに対して、データはどうなのか、計測後に本人に見せて、もうちょっと高く上げた方がいいかもとか、データを見る限りは、それでいいんじゃないか、などのやりとりがあります。

車いすセンサのスライド

力覚センサ(ロードセル)のページ

研究を、現場に残していく
今後目指すところや、こういうことをやりたいとか、ラボとしての目標など、目指すところはいかがでしょうか?
【河島】どうだろうな。別にそんなのないんだよな。いつ終わりにするかしか考えてないので(笑)本当は50歳で研究をやめるって言ってたんで、なんか未練がましく、まだやってるみたいになっちゃう(笑)自分が今ここでやってる研究成果が、ちゃんと製品になってリハビリの現場で使われるようになるっていうのが、ゴールなんでね。まだやり残してることはいくつかあるので、とりあえず自分の手を離れたとしても、別に自分があれこれ、采配しなくても、現場で使われるようになっていればいい。
パラスポーツの場合は、まだまだ科学支援や用具開発の担い手が少なく、今は研究の立場で関わりを続けています。既に仕事・サービスとして成り立って、担い手がいる対象は、自分の持ち場ではないので。だから、良くも悪くも、いい言い方すると自由度が高いんですよね。ブルーオーシャンでもあるけど、その一方で担い手がいないから、選手間や競技間の格差がすごく激しい。そこは選手にとって完全な不可抗力なので、どうにかしていかなきゃいけない。
自分が圧倒的に出張が多いのは、現場に行くからなんですよ。現場に行かなきゃ問題の起点が分からない。ただ自分一人で行くだけじゃなくて、スタッフと一緒に行って直に問題意識を共有したり、このところはスタッフそれぞれ自分で行ってもらったりしています。研究ができること、研究でしかできないことをちゃんと探して、計測して、形にする。ある意味、その連続であり、これができたから終わり、ではなくて、やっぱり次々と出てきちゃうんでね、新しいことが(笑)

河島 則天
Noritaka Kawashima

国立障害者リハビリテーションセンター研究所
運動機能系障害研究部 神経筋機能研究室長

彦坂幹斗
Mikito Hikosaka

国立障害者リハビリテーションセンター研究所
運動機能系障害研究部 流動研究員

秤谷名鷹
Nadaka Hakariya

国立障害者リハビリテーションセンター研究所
運動機能系障害研究部 流動研究員


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